事件報告
八事興正寺関連の記事は、下記のリンク先にまとめました
もくじ
名古屋女子大学T教授事件報告
解雇無効、懲戒処分無効、配置転換命令無効、降任処分無効、学長の業務命令は違法
教育と研究の侵害と人格権侵害は不法行為
T教授の匿名ブログは名誉棄損に当たらず
小島高志
名古屋女子大学教職員組合副委員長T教授への学園の攻撃に関する事件の地裁判決が9月18日に言い渡されました。10の大きな争点すべてで全面勝訴でした。
田邊浩典裁判長は判決で、配置転換と解雇は無効であってT教授は現在も文学部教授の地位にあると確認して解雇後の給与と一時金全額の支払いを学園に命じ、降任処分を無効として給与差額の支払いを命じました。さらにT教授に命じた不当な業務、配転命令、降任処分、紹介処分、解雇は違法で、教育と研究活動に対する侵害、人格権侵害、名誉・自尊心の毀損等に当たる不法行為であるとして慰謝料を支払えと学園と学長に命じました。またT教授の匿名ブログが名誉毀損に当たるとの学園の訴えをすべて棄却しました。
判決文中には大学教員の教育と研究の権利を認める等々ご紹介したい法的判断がありますが、紙数の関係で省かざるを得ません。
大学を運営する越原学園はこの何年か、T教員へのハラスメント解雇事件、傷害容疑でっち上げ事件、妊娠教員雇止め事件、国税学内立ち入り査察事件、デリバティブ取引による巨額損失問題、教職員組合委員長Y教授解雇事件、大学組合ニュースを名誉毀損とするスラップ訴訟事件、T教授への不当業務命令差止仮処分事件、中高組合への不当労働行為事件を引き起こしてきました。
今回の判決は一連の裁判の集大成とも言えるかもしれません。判決文は「業務上の必要性・合理性を欠く」「不当労働行為にも該当する」「業務命令権の濫用」「懲戒権の濫用」「人事権の濫用」等々と述べ、事件を引き起こし続ける学園の体質をヨミ切って確信に満ちて書かれたことがみてとれます。
学園の攻撃にこうしてついに見事な判決を勝ち取ったT教授とこれを支援してこられた全ての方々の勝利でした。一日も早い職場復帰の実現を願います。
(
つるま法律倶楽部たより2015年1月号より)
このページの先頭へ
「組合員追い出し部屋」への異動命令拒否を理由とした解雇
名古屋女子大学教職員組合委員長Y教授解雇事件報告
小島高志
(概要)
学校法人越原学園は,平成23年度,大学組合委員長Y教授に対して教職員研修室への異動を命じました(教授業務との兼任)。異動理由の説明がなければ命令に応じられないという委員長を,業務命令拒否を理由として解雇しました。
* 教職員研修室という部屋があるわけではない。ときにより,扉を開放した応接室のテーブルや事務スペースの廊下側の孤立した机が業務場所とされる。管理職の監視下での不慣れな業務,苦痛を与える方法での無意味な業務処理を命じ,言いがかりをつけて,複数の管理職が批判(つるし上げ)を行い,不利益処分が行われる。
研修室は「応接室の檻」「組合員お仕置き部屋」「追い出し部屋」とも評される。
* 配属経験者は,重要な組合員ばかりで,職員T,組合副委員長,組合書記長,組合加入を察知された職員Uでした。T職員は約6か月間の過酷ないじめを受けて解雇されたが,原職復帰を遂げる心身の状況ではなくなっていた。解雇された者2名(配属を拒否した委員長を加えると3名),自主退職した者1名。
(裁判所の判断)
名古屋地裁田辺浩典裁判長は,以下のように認定し,本件解雇を無効としました(名古屋地判H26・2・13)。
「…一見すると,業務上の必要性がある…しかし…」,研修室でのT職員,副委員長,U職員の業務内容を吟味したうえで,いずれも業務との関連性,必要性がないとし,「…被告が教職員研修室への異動を命じる職員が大学組合の組合員である場合には…その異動命令の目的は,組合活動を封じ込め,あるいは職員に対しことさら知識・技能の不足をあげつらい,また,あえて無意味・手間のかかる単純作業に従事させるなどして,当該教職員の自尊心を傷つけ,心理的圧迫・精神的苦痛を与え,これに耐えられない者については懲戒処分を出した上で,最終的には解雇処分をすることにあると認めるのが相当である」「…本件配転命令は,業務上正当かつ合理的な理由はないのみならず,原告に対し不当な目的をもって行われたもので,不当労働行為にも該当するというべきである」としました。
判決は,陳述書によって研修室業務の実態を詳細に伝えた他の組合員3名への処遇をも含めて,学園の非人間的なやり方を厳しく糾弾するものになりました。
以上
(
つるま法律倶楽部たより2014年4月号より)
このページの先頭へ
事件速報
その後の鈴鹿医療科学大学配置転換事件
大学教員の研究と授業の権利性、教授会の人事権
弁護士 小 島 高 志
事案
解剖学等の授業を担当し,西洋医学的観点から鍼灸を研究し,複数の科研費研究を継続中であった女性専任講師T先生が、2011年度、突然、鍼灸学部付属鍼灸センターでの鍼灸施術業務(はり師,きゅう師の業務)への専念を命じられ、大学教員の本務である研究・授業,学内委員等の業務を奪われました。実質的には大学教員から医療職への配置転換(降格)でした。
文科省から補助金を受けて行ういわゆる科研費研究は研究者にとっても大学にとっても名誉なことですが,これが継続・完成できなくなれば研究者としての将来に重大な汚点を残します。またT先生は准教授に昇格できる条件が整ったところでしたが,教員としての諸業務を取り上げられて空白が生まれると学内での昇任,昇格要件を満たさなくなります。卒業研究に取り組んでいた学生はその途中で指導者を失うことになります。こんな配置転換を平気で命じる大学経営者もいるのが実態です。
T先生は職場の教職員組合の支援を受けて,裁判手続によって配置転換命令の効力を争いました。本通信2012年5月号では,この仮処分決定が本件配置転換を違法,無効としたことを報告しました(津地決H24・3・29首藤晴久裁判官)。
仮処分後の経過と裁判所の判断
明快な仮処分決定が下されたのに大学側はなお争いを続け,事件は津地方裁判所,名古屋高等裁判所の審理を経ることになりました。そして地裁も高裁も,T先生への配置転換命令は違法,無効と判断し,救済の判決を下しました。
高裁判決は,仮処分決定と地裁判決(津地判H25・6・28山下隼人裁判官)の趣旨をさらに前進させ,T先生への慰謝料を地裁判断より増額させ,配置転換に際して教授会の審議を経なかったことは手続き上の瑕疵であると判断しました(名高判H26・1・30長門栄吉裁判長・確定)。
一連の裁判を通じて示された以下の点を特筆しておきます。
- 大学教員の研究・授業活動に権利性が認められたこと
(日本では,労働契約上,労働の義務はあるが権利はないと解されています)
- 教授会軽視の慣習は法的に是認できないとされたこと,配置転換に際して教授会の審議を経なかったことは手続き上の瑕疵だとされたこと
(教授会は学問の自由,学問の自治を支える重要な制度ですが,最近,教授会の審議を軽視又は無視しようとする大学運営傾向が強まっています)
一連の判決が示した法理はさらに前進させられるべきだと考えます。
教職員組合との連携
教職員組合は,理事長の強引な配置転換命令や学内状況を是正する運動の一環ともなるT先生支援活動に取り組みました。
当初,本件命令はT先生を大学教員から技術職員へ異動(降格)させるものでした。教職員組合はいち早くその不当を指摘し,精力的に団体交渉を行い,講師の身分を維持させました。その後も団体交渉を通じて,学会出張を認めさせ,研究時間の確保を求め,仮処分決定後はT先生を鍼灸業務から解放させ,あらゆる面での処遇の回復を求め続けました。こういう職場の運動と成果によって,T先生は勇気づけられ,大学教員として訴訟を維持し,中断の危機にあった科研費研究も継続・完成に至ることができたといえるでしょう。また一連の裁判のためには様々な情報,調査,分析が必要でしたが,この面でも教職員組合は大きな役割を果たしました。
T先生,教職員組合の現場の運動の連携と協力によってこそ上記のような素晴らしい判決を得ることができるという教訓を再確認させた運動でした。
以上
(
つるま法律倶楽部たより2014年4月号より)
このページの先頭へ
近年私学関係の労働事件が激増していました。今回はそのご報告です。いずれも当地方の伝統校です。
名女大中高不当労働行為救済申立事件
名古屋女子大学中学校高等学校教職員組合らが愛知県労働委員会に不当労働行為の救済を申し立てた案件について(平成24年4月26日申立)、今年11月5日、救済命令が発せられました。同労働委員会は学園側の様々な不当な行為を認定し、要旨、(1)速やかに団体交渉に応じよ、(2)一時金削減の根拠資料を示し説明して誠実に団体交渉をせよ、(3)学園の行為が労働委員会によって不当労働行為と認定された事実とこのような行為を繰り返さない旨の文書(誓約書)を教職員組合に交付するとともに、教職員の見やすい場所の掲示板で同文を掲示せよと命じました。
教職員組合の主要な主張をほぼ全面的に認容したものです。
誓約文の交付に加え掲示板による誓約文の掲示を命じた点は近年珍しいもので、それだけ学園の不当性が著しいと判断されたことがわかります。
(弁護団;森弘典、伊藤朝日太郎、川津聡。小島高志)
岡崎学園不当労働行為救済申立事件
11月25日、岡崎学園教職員組合らが申し立てた不当労働行為救済についての命令が下されました(平成23年12月28日申立)。要旨、(1)教職員組合委員長に対する自宅待機命令、懲戒処分、クラス担任外し等をなかったものとして扱え、(2)団体交渉申入に対してできるだけ近接した時期に交渉期日を設定せよ、(3)団体交渉に実質的交渉権限を持つ者を出席させ、誠実に団体交渉に応じよ、(4)教職員組合に対する誓約文を交付せよとを命じました(主要全国紙で報道)。
これも教職員組合の主張をほぼ認めたものです。
愛媛県の専門学校を中心とする学園が岡崎学園と関係をもったのが紛争の発端で、いまは合併計画が進められており、岡崎の伝統校の命運がかかっています。
(弁護団;森弘典、安井典高、小島高志)
学校の先生方にも様々な矛盾が押し寄せています。不正規雇用の拡大、労働条件の相次ぐ切り下げ、無償労働の常態化等々・・。
そんな中でも学校現場で、労苦を厭わず生徒を指導し教育を守るために頑張っておられる先生方がいます。
未来を作る子どもたちのための、そういう教育作りに対して、法的立場からバックアップができれば幸いです。
中日新聞 2014.12.4 付 朝刊
日本経済新聞 2014.12.4 付 朝刊 朝日新聞 2014.12.4 付 朝刊
名古屋経済大学事件
娘さんが中学校でいじめに遭って重篤なPTSDに陥り自死したことについて学校側の責任を追及して損害賠償を求めた訴訟をご存知の方は多いでしょう。
学校側は、いじめの是正を求めた母である大学準教授Tさんを解雇し、解雇無効の勝訴判決を得たTさんに対して、次には無理矢理に屈辱的な出勤命令や配置転換命令を出し、これに応じなかったTさんの給与の支払いを停止しました。給与停止は不当として、給与仮払いを求めた事件で、10月7日、Tさんの主張を認める名古屋地裁の決定が出されました。仮処分提起の際には新聞報道がされました。
学園のT先生への仕打ちは報復かとも推測されますが、学校の正常化を求める声を圧殺するような仕打ちは、あってはならないことだと考えます。
(弁護団;岡村晴美、小島高志)
(
つるま法律倶楽部たより2014年1月号より)
このページの先頭へ
鈴鹿医療科学大学事件【概要】 鈴鹿医療科学大学で鍼灸に関する研究を続けていた専任講師の先生が,併設鍼灸院への配置転換命令を受け,授業と研究の機会を奪われました。昨年11月,津地方裁判所に配置転換命令を差し止める仮処分を申立て,同裁判所首藤裁判官は3月29日,配置転換を違法とする決定を下しました。全面的勝利決定です。本決定は三重の各新聞で取り上げられました。
|
|
【学内状況】
職場の教職員組合は,配置転換内示以降の団体交渉等を通じて,大学当局の説得や譲歩を引き出し,裁判を全面的に支援しました。津地裁決定後は,奪われていた研究時間,研究費,教員研究室等々の回復を果たしました。さらに津地裁決定を基に,教授会の自律性の確立,学術の府にふさわしい民主的学内運営を目指しています。
【決定の法的注目点】
この決定で注目したい一つは,教授会の頭越しの配置転換につき,「教授会の審議を経ずに…された同命令は人選の合理性が高いものとはいいがたい」とした点です。最近の大学では教授会の本来の人事権等が経営優先の理事会によって蹂躙され,そのため大学教員が良心的で自律的な研究や授業を行いにくくなっている状況があります。この決定は大学教員と教授会が本来の自主性や学問的良心を取り戻す勇気を与えるでしょう。もう一つの注目点は「(大学教育職員の)職務の本質的な部分は,教育・研究にあるといえる。…かかる職務は,教育職員にとって,
雇用契約上の義務にとどまらず権利的な側面を有することは否定できない。…教育・研究を公式に認められなくなることは,教育職員として採用された債権者にとって極めて大きな不利益である」としたことです。一般に労働者の就労請求権=働かせよと求める権利は認められないとされています。その中で,大学教員の教育と研究の権利性を認めたことは,前進だと評価できます。
【まとめ】
当事務所は良心的な教職員の権利を巡る事件を担当してきました。授業と研究は教員の権利だとする法理が確立されるべきだと信じます。そのことが権力に迎合せずに真実を追究する礎になり,次代の若者を育てる礎になると信じるからです。引き続き権利拡大のために尽力します。
(
つるま法律倶楽部たより2012年5月号より)
このページの先頭へ
名古屋女子大学事件
当地方の伝統校越原学園を巡る法的紛争の一つ,仮処分決定が3月24日付け中日新聞で報じられました。
【不当業務の強要】
仮処分を申し立てたのはインド・チベット仏教思想史を専門とする名古屋女子大学文学部の教授です。何冊かの著作が市販され,手に取られた方もおられるでしょう。その教授が突然学園に呼び出され,「授業改善特別プログラム」の名の下に,終始監視を受けながら漢字検定の過去問題を解くよう強要され,やがて全授業と研究時間を取り上げられ,無関係な他学部の授業見学や授業プレゼンテーション等を強要されました。教授が教職員組合の副委員長であって良心的であることから,嫌がらせを加えて退職に追い込むのが学園の狙いだと思われます。事務職組合員が同様の攻撃を受け解雇された前例があります。
【仮処分の審理と決定】
学問業績を積み重ね,熱心な教育者でもある教授を授業,学生指導,研究から切り離し,嫌がらせとしかいいようのない業務に従事させ続けることが許されるはずがありません。本年1月20日に不当業務差し止めの仮処分の申立をすると,学園は教授の私物を無断で持ち去るに及び,審理中も嫌がらせを続けました。これらを裁判所に伝えながらの審理でした。3月13日,名地裁日比野裁判官は「(一連の)業務命令は合理性がなく,業務命令権を濫用するものと認められ,これへの従事を強いられていることにより日々生じる債権者の苦痛は著しいと認められる」として,申立を全面的に認める決定を下しました。
審理途中で不利を悟った学園は,「単に名目を変えただけで似たような業務命令を発することが許される」と主張し,「債権者に配置転換を告知した」と述べ,決定の妨害を試みました。そして宣言どおり,地裁決定直後に配置転換を強行し,現在も「名目を変えて似たような業務」を命じ続けています。すぐに配置転換命令の違法を訴える2次仮処分を申立てましたが,この間にも学園は教授に次々と嫌がらせを加えています。
【他の事件も】
学園は,いくつもの強引な事件を引き起こし,裁判所,愛知県労働委員会をにぎわせています。働く教職員,成長期にある学生,生徒のために,教育の場にふさわしい学校運営を取り戻してほしいと願います。
(
つるま法律倶楽部たより2012年5月号より)
このページの先頭へ